薬膳Part1 食事で体を元気にする基礎知識 

こんにちは、櫻井です。今日は『薬膳』のお話をしたいと思います。薬膳に対して皆様、どんなイメージをお持ちでしょうか。「身体にはよさそうだけど、おいしくない」とか、「興味はあるけどなんだか難しそう」とか、とっつきにくいイメージをお持ちではありませんか?今日はそんな、実は興味があるけど、敷居の高い薬膳のいろはをお話したいと思います。薬膳と一言で言っても、とても一言で語られるものではなく、ここで書いてもとてもながくなってしまいますので、複数回に分けてお話したいと思います。今日は薬膳理論の前篇をお話します。

薬膳と漢方薬

漢方の古典でもあり、薬膳の古典でもある黄帝内経 素問には、”五穀為養、五果為助、五畜為益、五菜為充、気味合而服之、以補益精気”という言葉があります。これは五穀は五臓を養い、五果は五臓を助け、五畜(肉類)は五臓を補い、五菜は五臓を充実させる。これらの多くの食材を組合わせ食することで、体内のバランスを保ち、体の精気を養うことが出来るという意味で、薬膳と漢方薬はともに体を健康に保ち、病気を予防するためのものであるということが書かれています。

薬食同源という言葉を聞いたことはないでしょうか。これは薬も食も自然から分け与えられたもので、どちらにも人の体を元気にする力があるということです。薬膳も、漢方薬も、材料は植物や動物などの自然の恵みで、その摂取方法が違うだけです。漢方薬の多くは、様々な煮汁を煎じ薬として服用します。薬膳では、それらの食材を煮たり、焼いたり、炒めたり、お酒につけたりなどして、多くはそのものを摂取します。薬膳と漢方薬の原料に大きな違いはありません。ただ一つ違うのは、苦くて飲みづらいものも多々ある漢方薬に比べ、薬膳は「毎日続けられる、おいしいもの」であることがその条件ということです。
画像の説明
クコの実は薬膳にも、漢方薬にも使われる代表的な植物

整体観と弁証論治

薬膳とは、「中医学の理論に基づいた、健康になるための食事」のことを言います。中医学の理論の根幹をなすものとして、整体観(せいたいかん)と、弁証論治(べんしょうろんち)があります。

整体観とは、人間を、部分的にとらえるのではなく一つのまとまりのある個体としてとらえる中医学独特の考え方です。中医学では、病気を部分的に見ず、「病んでいる個人」として人体と病気の関係を全体的にとらえます。例えば、腹痛を感じて西洋医学の普通の病院に行くとします。そうするとお医者さんは、胃はちゃんと動いているか、炎症が起きていないか、ピロリ菌はいないか、穴は開いていないかなど、胃自体がどうなっているかを調べるはずです。しかし中医学ではその胃の痛みを、どんな食事をしているか、冷えやほてりは無いか、ストレスはどうか、それによりガスは溜まっていないか、咽のつまり感はないか、足腰の冷えやだるさはないか、むくみはどうかなど、一見関係無いような質問をして、体内の全体的なバランスから原因を探ろうとします。この考え方が整体観なんです。これが中医学は「病気を見ず、人を見る医学」であるといわれる所以です。

もう一つの弁証論治とは、見て、聞いて、尋ねて、触って得た情報を、分析し治療法を考案する一連のプロセスを指します。弁証とは、患者さんから得た情報を分析・統合し、病気の見立てを立てることで、論治とは、その見立てに従って治療法を考え、薬を選ぶことです。

この整体観と弁証論治の二つの理論に基づいた食事を「薬膳」と言います。よって薬膳では、食べる人の状態を分析して、その人の体質、症状に合った食材と調理法を選び提供することです。

食物の四気と五味と帰経

薬膳を作るときに重要なのが、一つ一つの食材がもつ特性です。それらを薬膳では「四気(五気)」「五味」という二つの要素で分類しています。

温める食材、冷ます食材「四気」

四気とは、寒、涼、温、熱で、その食物をとったときに体内での寒熱を分類したものです。どちらにも属さないもの、寒熱の偏りのないものをと言い、黒ゴマ、山いも、クコの実、梅、うるち米、大豆、じゃがいも、さつまいも、さといも、きくらげ、しいたけ、キャベツ、たまご、ピーナッツ、梅、イチゴ、ぶどう、りんご、すもも、いちじく、などがあります。

寒・涼には、身体を冷やしたり、余分な熱をとったりする働きのほか、機能を鎮静させたりするという働きも含まれます。食材の例としては、とうがん、はと麦、緑豆、ウコン、豆腐、セロリ、ナス、きゅうり、トマト、にがうり、ごぼう、大根、白菜、ほうれん草、れんこん、あさり、しじみ、かに、わかめ、バナナ、スイカ、なし、かき、そば、緑茶、塩などがあります。

温・熱には、体を温め、気血をよく動かし、新陳代謝を高めるという働きがあります。また、ある一種の興奮作用を意味する場合もあります。食材の例としては、しょうが、ネギ、シソ、紅花、シナモン、唐辛子、コショウ、山椒、にんにく、たまねぎ、らっきょう、ニラ、かぼちゃ、かぶ、菜の花、羊肉、鶏肉、まぐろ、サケ、エビ、栗、桃、紅茶、もち米、酒、ワイン、黒砂糖などがあります。

平まで含めたものは「五気」、それ以外を「四気」といいます。

漢方、薬膳、食養生、健康
羊肉は体を温める代表食材

味にも効能がある「五味」

五味とは、酸、甘、辛、苦、鹹(しおからい)の5つの味のことで、これらもそれぞれに働きがあります。

酸味には、正常な体液を体内にとどめる作用。出過ぎるものを止める作用。肝に導き、自律神経の働きを整え、ストレスを解消する作用などがあります。食材は 梅、レモン、酢、ローズヒップ、サンザシ、いちご、トマトなどがあります。

甘味には、胃腸の働きを助け、力をつける作用。痛みや緊張を緩和させる作用などがあります。食材では、米、ピーナッツ、砂糖、はちみつ、バナナ、ぶどうなどがあります。

辛味には、肺や呼吸器を強め、発汗を促進する作用。気や血を巡らせ、体の中にある寒けや熱、湿気を発散させる作用などがあります。食材では、しょうが、ネギ、シソ、唐辛子、コショウ、にんにく、たまねぎなどがあります。

鹹味(塩からい味)には、硬いものを柔らかくする作用や通便作用があり、腎の働きをよくする作用などがあります。食材では、 昆布、わかめ、のり、エビ、イカ、あさり、豚肉などがあります。

苦味には、心や循環器を強化し、身体に溜まった余分な熱を冷まし、排泄作用や体内の余分な水分や老廃物を取り除く作用。神経を鎮静させる作用などがあります。食材では、 緑茶、ぎんなん、陳皮、はすの実、みょうが、にがうりなどがあります。

ひとつの食材でいくつかの食味をもつものも多くあります。それらは、効果の及ぶ範囲が広く、改善できる症状も多くなります。

届く先を決める「帰経」

もう一点食材を選ぶときに大切な要素があります。それはその食材の「帰経(きけい)」です。帰経は五味と対応する五臓六腑の組み合わせのことで、肝、心、脾、肺、腎の五臓と、胆嚢、小腸、大腸、胆嚢、膀胱に三焦を加えた六腑があります。肝・胆は酸味、心・小腸は苦味、肺・大腸は辛味、脾・胃は甘味、腎・膀胱は鹹味で、帰経はその食材の食味が体のどの部分に影響があるかを示したものです。一つの食材に一つの帰経というわけでなく、大体は複数の帰経を持っています。

☆肝は、血を貯蔵し血流量をコントロールし、臓腑の生理機能をスムーズに行えるよう調節しています。その影響は自律神経系にも及ぶので、肝の変調はイライラや不安、落ち込みなどから、下痢や便秘、ガスが溜まるなどの症状となって出てきます。また情緒面では怒りやすくなります。

肝に帰経する食材は、あさり、しじみ、カキ、イカ、レバー、菊花、クコの実、セロリ、せり、トマトなどです。

☆心は、血を体中に巡らせるポンプとしての作用と、精神や意識の安定にも影響します。心に変調をきたすと、ドキドキしたり、息切れしたり、脈が飛んだりなどの症状が感じらるようになったりすることがあります。心はすべての臓腑を統括しており、心が弱ると、すべての臓腑の機能が低下してしまいます。心の状態は舌や顔色、眼光、言語などに反応が出やすく、心の機能が低下したときは、顔の色つやが悪くなり、目からは生き生きとした生命力が感じられません。

心に帰経する食材は、小麦、なつめ、竜眼肉、はすの実、ゆり根、たまご、にがうり、とうがん、茶葉、ウコンなどです。

☆脾は、胃とともに消化吸収を担い、エネルギーである気や血の元と潤いを造りだし、それらを全身に送り出す働きをしています。くわえて、体にとって必要なものとそうでないものを分ける働きと、血液を血管内にとどめる働きもしています。脾の機能低下は、気や血の不足を生み、下痢や消化不良などの症状を発生させませす。脾の状態は口にでやすく、食べ過ぎなどでは、口の周りにニキビが出来たり、口角が切れたりします。唇の色つやが悪い場合は、胃腸機能低下を疑いましょう。また脾や胃は乾燥を好む臓器で、湿気を嫌います。梅雨時期や夏場など湿度が高い時期の食欲不振はそのためです。

脾に帰経する食材は、米、長いも、さつまいも、かぼちゃ、キャベツ、しいたけ、鶏肉、カツオ、大豆など

☆肺は、綺麗な空気を取り入れ、全身に送り出す呼吸ににた働きのほか、潤いや栄養分の運搬も担っています。また、皮膚や粘膜など生体バリア機能や免疫とも深く関係しています。肺の機能低下は、感染症にかかりやすくなったり、喘息や咳などの呼吸器系のトラブルのほか、アトピー症状や花粉症など免疫系のアレルギー症状の発生要因となります。中医学での肺は鼻や口、気道なども含めた呼吸器系全般を指しているので、それらのトラブルでは肺の失調を疑います。またはいは、潤いを好む臓器で、空気が乾燥する秋や冬場は苦手です。

肺に帰経する食材は、シソ、しょうが、はと麦、松の実、ぎんなん、白菜、くるみ、たまねぎ、レンコン、大根、梨など

☆腎は、尿を作り出すための役割ではなく、人の成長や発育、生殖を司り、ホルモンの分泌や、知能、知覚、運動系の発達と維持にも関与し、人体の生命力の源と言える臓腑です。その他、身体を温めたり、血の生成にも関与しています。腎の弱ると、腰痛や筋肉や骨の衰え、知力や体力の低下などがみられるようになります。『腰は腎の器』という言葉があり、腰痛がある方は腎に何らかのトラブルを抱えていることが多くあります。

腎に帰経する食材は、黒ごま、クコの実、長いも、すっぽん、なまこ、羊肉、うなぎ、くるみ、海老、ニラ、栗、ぶどうなど

いかがでしょう。何となく薬膳の姿が見えてきたでしょうか。難しい!と感じた方もいるかもしれませんが、言葉に慣れて、臓腑の働きなどを覚えてしまえば、理論はそれほど難しくはありません。某TVCMで、「薬膳コーディネーター養成講座」なんて耳にする昨今、毎日の食事で健康管理ができる「薬膳」の需要は高まりつつあるのかもしれません。また、自分の体を病院頼み、薬頼みにせず、自ら意志によって健康な体作りをすることへの意識も高まってきているように感じます。美味しく食べられ健康に良い。こんなに良いことはありませんよね。病院の入院食なんかも薬膳のコンセプトをもっと取り入れてくれればもっとおいしく、身体に良いものができあがるのになぁ~なんて思っています。ではでは、次は理論の後編のお話をしますので、お楽しみに。
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